大阪高等裁判所 平成6年(ネ)1582号 判決
主文
一 原判決中被控訴人Y2株式会社に関する部分を次のとおり変更する。
1 被控訴人Y2株式会社は控訴人に対し、金一六四万一五〇五円及びこれに対する平成五年一月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 控訴人の同被控訴人に対するその余の請求を棄却する。
二 原判決中被控訴人株式会社Y1に関する部分につき、本件控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、控訴人と被控訴人Y2株式会社との関係においては第一、二審を通じてこれを七分し、その一を同被控訴人の、その余を控訴人の各負担とし、控訴人と被控訴人株式会社Y1との関係においては控訴費用は控訴人の負担とする。
四 この判決の主文第一項1は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは各自控訴人に対し、金一一六〇万四七二七円及びこれに対する昭和五九年一二月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 被控訴人ら
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二事案の概要
原判決二枚目裏四行目から五行目へかけての「主任添乗員」を「右旅行に同行した主任添乗員(被控訴人Y2株式会社従業員E)」に、同五枚目表一一行目の「一三六九万九〇一二円」を「一三六六万九〇一二円」に、同裏五行目の「既受領分」から同六行目の「に対する契約履行日」までを「既受領分及び弁護士費用内金一〇〇万円を控除した残額の内金一一六〇万四七二七円並びにこれに対する右旅行の終了日の翌日である昭和五九年一二月一三日」に各改めるほか、原判決の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、それを引用する。
第三証拠
原審訴訟記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、それを引用する。
第四当裁判所の判断
一 控訴人と被控訴人らとの法律関係について
当事者間に争いがない事実などに、証拠(乙三、原審証人D、同C、原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。
1 かねてから被控訴人株式会社Y1の会員であった控訴人は、同被控訴人から送られてくるパンフレット等により、同被控訴人の企画する行事等に参加するよう誘われていた。今回の旅行の前にも、同被控訴人から「Y1 84 冬の行事ご案内」と題するパンフレットが送られてきたが、その「ご招待行事」のページに「○○旅行」と題する本件の国内団体旅行の広告があり、「お申込み受付日 一一月一六日から」とあったので、控訴人は、当時独身で控訴人方に同居していた長女のCを通じて、両名で右の旅行に参加する旨の申込みをし、同被控訴人はこれを受け付けた。
2 同被控訴人は、当時未だ旅行業法に基づく旅行業代理店の資格を有していなかったこともあって、右のパンフレットに「※ご招待旅行はY2(株)が主催いたします 観光旅行の[1]~[5]については添乗員が同行いたします」と明記し、実際にも右の旅行は、被控訴人Y2株式会社によって主催された。なお、被控訴人株式会社Y1は、その後の昭和六〇年九月二日に旅行業代理店の資格を取得した。
3 右の旅行には、被控訴人Y2株式会社から、主任添乗員として同被控訴人の従業員であるEが同行したが、その他に同被控訴人の要請により、写真撮影者のD及び臨時添乗員のFの二名が補助添乗員として同行していた。しかし、被控訴人株式会社Y1から右のような者らが同行していた形跡はない。
以上のとおり認められる。
右に認定したところによれば、被控訴人株式会社Y1は、被控訴人Y2株式会社のする主催旅行契約について、旅行者である控訴人らからの右の旅行申込みを取り次いだものであるが、更に進んで実際に旅行サービスの提供をし、あるいは被控訴人株式会社Y1と共同して本件の旅行を引き受けたものとはいえず、その他本件全証拠によっても、被控訴人株式会社Y1に関しては、右の点を首肯すべき事実関係を認めるに足りない。
そうすると、被控訴人株式会社Y1は、単独であるいは被控訴人Y2株式会社と連帯して、控訴人に対し、主催旅行契約上の債務を履行する義務を負うものではないというべきである。したがって、控訴人の被控訴人株式会社Y1に対する請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。
そして、前認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、前記のE、D及びFらは、いずれも被控訴人Y2株式会社の履行補助者として、同被控訴人が控訴人に対して負う主催旅行契約上の債務の履行に任ずべき立場にあったものというべきである。
ところで、旅行業者は、主催旅行契約の相手方である旅行者に対し、主催旅行契約上の付随義務として、旅行者の生命、身体、財産等の安全を確保するため、旅行目的地、旅行日程、旅行行程、旅行サービス機関の選択等に関し、あらかじめ十分に調査、検討し、また、その契約内容の実施に関しては、専門業者としての合理的な判断に基づき、遭遇する危険を排除すべく、細心の注意を払って旅行者の生命、身体、財産等の安全に配慮すべき義務を負うとともに、万一このような危険が発生し、旅行者の生命、身体、財産等に被害が生じた場合などには、これを最少限度にくいとめるべく、適切な措置をとるべき保護義務を負うものというべきである。
そこで、以下、被控訴人Y2株式会社が控訴人に対し、右の各義務を懈怠したかどうか、したとすれば、控訴人に対し、どのような範囲でどのような損害賠償義務を負うか等について、順次検討を加える。
二 本件における具体的な安全配慮義務懈怠の有無について
前記の当事者間に争いがない事実などに、証拠(甲三、検甲一、乙一ないし三、検乙一ないし五、原審証人C、同D、原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。
1 本件事故は、昭和五九年一二月一二日の午前、参加者のほとんどが中年以上の女性で、その年齢も区々な団体旅行において、a公園内に設けられた団体旅行用の写真撮影場所で起きたものであるが、右場所においては、撮影台とカメラの位置が園内を流れる小川を隔てて向かい合うようになっていたため、補助添乗員兼撮影者であるDは、直接右の撮影台のところに行って被撮影者である旅行者らの位置を決めることが難しく、カメラのファインダーを覗きながら、口頭で被撮影者にあれこれと指示をすることによって、その位置決めをせざるを得ない状況であった。
2 右撮影台は、幅三六センチメートル、高さ四〇センチメートル、長さ一八〇センチメートルのアルミ製のベンチを横に三個並べただけの簡易なもので、被撮影者の転落を防止するための手摺等特段の設備はなかった。撮影は、後記のとおり、控訴人を除いてなされたが、この被撮影者たちは三列になって撮影された。すなわち撮影は、前の第一列目の被撮影者一二名がしゃがみ、次の第二列目の被撮影者二〇名が立ち、第三列目の被撮影者一四名だけが右のベンチの上に立ち姿で乗って、なされたのである。
3 本件撮影に際しては、被撮影者の全員がなかなか集合に至らなかったので、Dは、集合を促すための声を掛けて被撮影者を急がせていた。
4 控訴人は、当初前から二列目の右端にいたCの左後方に立っていたが、顔が隠れていたため、Dは控訴人に対し、「めがねの方。めがねの方。もっと左へ、左へ。」と急いで移動するように指示するとともに、撮影台に乗っている他の被撮影者に対しては、控訴人が撮影台の上に立てるスペースを空けるために、もう少し左の方へ寄るように指示した。
5 そのため、控訴人は、Dから、撮影台の上に上るよう指示されているものと理解し、台上のスペースは狭かったものの、台の向かって右側から左を向いて台の上に上がった。
6 そして、控訴人が台上でDの方に向き直ろうとしたとき、控訴人は、隣りに立つ被撮影者の肩に触れて強く押しかえされるような状態となり、そのはずみに、あたかも両足が上って飛び上ったような感じになり、台上から仰向けに後ろへ転落してしまった。そのとき「ボコン」と音がした。
7 Cは、右の「ボコン」という音を聞いて、控訴人が落ちたのに気付き、振り向いたところ、控訴人は、空を見るように足を上に向け、仰向けに倒れており、しばらくは意識を失っていた。
8 しかし、Dが撮影を続行する様子なので、Cは、控訴人を叱りつけ、傷の有無を確かめたのち砂利の上に座らせた状態にしたまま、控訴人を除く被撮影者とともに写真撮影を受けた。
9 控訴人は、本件事故当時、満六一歳の女性であった。
以上のとおり認められる。
右に認定したところによれば、本件事故は、補助添乗員兼撮影者であるDが、かなり隔てた場所から口頭で被撮影者である旅行者らに指示を与えざるを得ない状況のもとに、満六一歳の女性である控訴人に対し、同人が撮影台の上に安全に上ることができるかどうかを十分に確認することなく、転落防止用の手摺等もない、幅三六センチメートル、高さ四〇センチメートルの撮影台(アルミ製ベンチ)上に上るべきものと理解するほかない内容の指示を与え、そのため前記のように、長さが一八〇センチメートルしかない右のベンチ三個の上に控訴人を含め一五人もの被撮影者が上ることとなってしまい、台上の控訴人が、隣りの被撮影者に押されるような形になり、そのはずみに台上から仰向けに転落した結果発生したものというべきである。もとより、控訴人は、自らの身体の安全を確保するため、台上のスペースを十分に確認してから台に上るか、あるいはそれが難しいならば、その旨をDに告げるべきであったといい得なくもない。しかし、総勢四〇人を超える被撮影者がDにせかされて、前認定の状況下に、撮影を受けることとなったばかりか、右のような撮影台に急ぎ上らざるを得ないこととされた満六一歳の控訴人に対し、Dは、自ら撮影台上の被撮影者の安全を確認することができない状況のうちに、控訴人に口頭で指示を与えるからには、控訴人が撮影台上から転落する等の事故に遭うことのないよう、明確かつ一義的で、適切な指示を与えるだけでなく、全体の被撮影者の挙動や雰囲気等の様子を観察し、安全かつ円滑に撮影がなされるかどうかに配慮すべき安全配慮義務があるものというべきであるところ、本件事故は、基本的に、決して少人数ではない団体旅行中の、不安定ともみえる撮影台を使用して中高年層の女性客を主とする集団の写真撮影をするに当たってなすべきDの指示が不適切なことによって発生したものであり、Dには、控訴人に対する安全配慮義務を怠った過失があるといわなければならない。
そして、証拠(検甲一、乙三、原審証人D)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故は、被控訴人Y2株式会社が主催し、控訴人の参加申込みを承けて催行、実施した団体旅行の過程で発生したものであることが明らかであって、同被控訴人は、前述のとおりの安全配慮義務を負っているというべきであるから、控訴人に対し、履行補助者としてのDの前記過失につき、主催旅行契約上の債務不履行責任を負うものというべきである。
三 本件における具体的な保護義務懈怠の有無について
前記当事者間に争いがない事実などに、証拠(甲三、乙三、原審証人C、同D、原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。
1 本件撮影が終了した後、控訴人は、Cほか一名に抱えられるような状態でゆっくり歩いてバスまで戻ったが、添乗員らは、控訴人の様子を見にも来ず、また、控訴人自身も、声に出して痛みを訴えることはなかった。
2 しかし、その後、旅行参加者らは、バスに乗って次の観光場所であるc山に行ったが、昼食時になったころには、控訴人は、Cに痛みを訴え始めたので、Cは、Dが来てくれると思って待っていたが、Dも他の添乗員も、控訴人の様子を見には来なかった。
3 次いで、右の参加者らは、バスに乗って別の観光場所であるd会館を訪ね、その後には大阪への帰途、最後のトイレ休憩のためにサービスエリアに立ち寄ったが、そこでは、控訴人は、Cに抱えられるようにしてようやく用を足すほどであった。しかし、Dも他の添乗員も、控訴人の様子を見に来ることはなかった。
4 右のような経過で本件事故後も旅は続けられたが、控訴人及びCは、旅行が団体旅行であり、大阪への帰路でもあったため、黙っていても病院に連れて行ってくれるものと信じ、敢えてDに対して、手当をしてほしい旨申し出ることはしなかった。
5 やがて一行は、帰着地の大阪市内天王寺公園に着いたが、控訴人は、添乗員やバスガイドらに介助されてバスを降り、そこからCと二人でタクシーに乗り、自宅に帰った。
以上のとおり認められる。
前記二に認定した事実及び右に認定したところのほか、弁論の全趣旨を総合すれば、Dは、本件事故を終始目撃していたことが明らかである。他方、控訴人は、観光場所等でCに抱えられるようにして歩き、帰着地においても添乗員らに介助されてバスを降りたのは前記のとおりである。そして前認定の各事実関係のもとにおいては、Dは、主任添乗員に事態を報告して指示を求めるとともに、控訴人のその後の様子に対して細心の注意を払い、思わぬ怪我をしてはいないか、気分の悪化がないか等に意を注ぐべきであった。しかるにDは、特段に配慮して控訴人の様子を見たり、積極的に怪我の有無ないしはその手当の要否について確かめたりしたうえ、医療機関へ連れて行くなどの措置をとらなかったものである。もっとも、控訴人にも、自らの心身の健康保持のためには、本件のような思わぬ転落事故、それも台上から仰向けに後ろへ転落するというような、予後を放置しても安全であるとはいいきれない事故に遭ったのであるから、添乗員等に対し、臆することなく事態を告げるとともに、痛みがあればこれを訴え、適切な措置を受けられるよう申し出るべきであったといえなくもない。しかし、いわゆる大手旅行業者であることが顕著な被控訴人Y2株式会社における補助添乗員をも兼ねているDとしては、同被控訴人の催行、実施する本件の国内団体旅行の客であり、その参加者でもある控訴人に本件事故のような転落事故が発生した以上、控訴人からの申出の有無にかかわらず、主任添乗員に報告してその指示を求めることはもとより、積極的に負傷の有無・程度を確かめ、手当をしたり、場合によっては医療機関に同行するなど適切な措置をとるべき保護義務があるものというべきであり、これをしなかったDには、旅行者に対する保護義務を怠った過失があるといわなければならない。(のみならず、主任添乗員であったEとしては、本件に類した団体旅行に伴いがちである前認定のような不測の事態の発生の有無及びそれが発生した際の補助添乗員らの対応の仕方に不十分、不適切な点がないかどうかに絶えず意を用い、それ相応の適切な対応をすみやかにとるべきものである。しかるに、Eが本件事故に際し、右のような適切な対応をとったことを窺うべき証拠はない。)
そうすると、前同様に、同被控訴人は控訴人に対し、履行補助者としてのDの過失につき、主催旅行契約上の債務不履行責任を負うべきものである。
四 損害の額及び因果関係について
前記当事者間に争いがない事実などに、証拠(甲一、二の1ないし9、四、五、六の1ないし●●●、七の1ないし7、検甲二の1ないし11、乙四の1及び2、五、原審における控訴人本人)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。
1 控訴人は、本件事故前の昭和五九年二月一五日以来、自宅近くの田中外科病院において、同日から同年六月ころまでの間は腰痛の傷病名で、同年九月一九日から同年一〇月ころまでの間は帯状疱疹等(初診の際同年九月一日に転倒した旨述べていた。)の傷病名で通院治療を受けていたが、本件事故の翌日である同年一二月一三日、仰向けに転倒したことを訴えて診察を受け、腰椎X線撮影を受けた結果、第三ないし第五腰椎に圧迫骨折のあることが判明した(なお、比較的高齢の女性が転倒したためしばしば腰椎等の圧迫骨折の傷害を負うことは、当裁判所がこれまで審理した多数の交通事故事例等に照らして顕著である。)。
2 控訴人は、その後も湿布、温熱療法、投薬等を受けながら通院治療を続けたが、腰痛は改善せず、あまつさえ左手・左足不全知覚麻痺、湿疹、痔裂、脱肛、膀胱炎、両膝関節炎等の症状も発現し、平成元年四月一四日にX線撮影を受けた結果、第一ないし第五腰椎に圧縮変形が認められ、平成二年二月五日には胸椎にも強い痛みが発現したことから、同月八日にX線撮影を受けた結果、第六及び第七胸椎にも圧縮が認められ、併せて骨粗鬆症と診断されたため、同月九日から同年四月一日まで五二日間同病院に入院して、検査及び治療を受けた。
3 控訴人は、退院後も同病院に通院し、前同様の治療を受けたが、相変わらず腰痛が続き、第一ないし第五腰椎並びに第六及び第七胸椎に圧挫が認められ、骨粗鬆症も改善されないほか、湿疹や痔裂等の症状もあり、平成三年一月一九日には左右肋間神経痛が強く発現したため、再び同月二一日から同年四月七日まで七七日間同病院に入院し、治療を受けた結果、肋間神経痛は保存的に軽快した。
4 控訴人は、再度の退院後も同病院に通院し、更に治療を続けたが、肋間神経痛を除く前記各症状は軽快せず、平成四年五月ころには、自宅で薬局から鎮痛剤を購入して多量に服用するようになったため、医師から服薬を減らすよう注意を受けたが、了解せず、同年一〇月ころには、多くの症状を訴え、支離滅裂にすらなった。
5 控訴人は、その後も同病院に通院したが、同年一二月一二日には、もはや何らの治療効果も見られなくなり、その症状が固定したとみられるところ、その後遺障害は「脊柱に著しい奇形又は著しい運動障害を残す」程度のものであった。
6 控訴人は、本件事故の翌日である昭和五九年一二月一三日から症状固定時である平成四年一二月一二日までの八年間に、次のような損害を受けた。
(一) 入・通院にともなう支払診療費等の治療費 金六一万八七二七円
ただし、昭和五九年一二月一三日から平成四年七月一八日までの分
(二) 入院雑費 金一六万七七〇〇円
平成二年から翌年にかけての入院日数合計一二九日に一日当たり金一三〇〇円を乗じたもの
(三) 入・通院慰謝料 金三〇〇万円
(四) 後遺障害慰謝料 金八〇〇万円
(五) 治療期間中の逸失利益 金八四二万五四八六円
控訴人は、本件事故当時満六一歳の女性であり、本件事故後九年間は稼動可能とみられるところ、賃金センサス昭和五九年第一巻第一表によれば、産業計・企業規模計・学歴計の年齢六〇歳から六四歳までの女子労働者に対する年間給与額は金二一三万一二〇〇円であるから、これを基礎とし、前記八年間の生活費控除率を四〇パーセントとして、新ホフマン方式(係数六・五八九)により中間利息を控除して算定すべきである。
(六) 後遺障害による逸失利益 金一七八万四九九五円
控訴人は、前記後遺障害により、その労働能力の六七パーセントを喪失したものとみられる。そして、控訴人は、前記症状固定の時、満六九歳に達しており、右後遺障害がなければ、その後一年間は稼動可能とみられるところ、賃金センサス平成四年第一巻第一表によれば、産業計・企業規模計・学歴計の年齢六五歳以上の女子労働者にする年間給与額は金二七九万八五〇〇円であるから、これを基礎とし、右一年間の中間利息を新ホフマン方式(係数〇・九五二)により控除して算定すべきである。
以上のとおり認められる。
右に認定、説示したところによれば、本件事故と控訴人が受けた前記損害との間には、相当因果関係があるものというべきであるが、控訴人には、本件事故前から腰痛等の持病があり、本件事故の二、三か月前にも帯状疱疹等により治療を受けており、また、本件事故後の治療経過をみても、本件事故と直接の関係があるとはいい難く、むしろ必然的なあるいは通常あり得る加齢に伴う身体ないしは精神上の不具合にみられる多様、多彩な身体的・精神的症状をも発現、随伴していること等本件に顕われた諸事情にかんがみると、四〇パーセントの限度で相当因果関係があるものとするのが相当である。
さらに、前記二及び三で認定した本件事故の態様及びその直後の状況等に照らしてみると、Cを含む控訴人側には本件事故による損害の発生につき相当の落度があるものといわなければならないので、右相当因果関係の肯認される損害のうちから、過失相殺により更に六〇パーセントを控除するのが相当である。
そうすると、前記(一)ないし(六)の損害合計金二一九九万六九〇八円のうち、控訴人の被控訴人Y2株式会社に対する損害賠償請求権として発生した額は、金三五一万九五〇五円となるところ、このうち既に合計金二〇二万八〇〇〇円の填補がなされていることは当事者間に争いがないから、その残額は金一四九万一五〇五円となる。
そして、本件事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌すると、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は、金一五万円とするのが相当である。
五 まとめ
よって、被控訴人Y2株式会社は控訴人に対し、債務不履行に基づき、以上の損害賠償金合計金一六四万一五〇五円及びこれに対する本件訴状が同被控訴人に送達された日の翌日である平成五年一月三〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべきである(なお、債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務であり、民法四一二条三項によりその債務者は債権者からの履行の請求を受けた時にはじめて遅滞に陥るものというべきであるから(最一小判昭和五五年一二月一八日民集三四巻七号八八八頁参照)、本訴請求債権につき、記録上本件訴状送達の日より前に控訴人から同被控訴人に対する履行の請求がなされたことを窺うことのできない本件においては、同被控訴人は右の訴状送達の日に遅滞に陥ったものというべきである。また、右損害賠償債務は、同被控訴人が商行為である主催旅行契約上の付随義務に違反した結果生じたものであるから、商事債務として商法五一四条の適用を受け(最一小判昭和四七年五月二五日判例時報六七一号八三頁参照)、その遅延損害金の法定利率は年六分となるものである。)。
第五結論
以上のとおりであるから、控訴人の被控訴人株式会社Y1に対する本訴請求は理由がなく、控訴人の被控訴人Y2株式会社に対する本訴請求は前示の限度で理由があり、その余は理由がない。よって、原判決中右と異なる同被控訴人に関する部分を、右判示の趣旨に従い本判決主文第一項のように変更することとし、原判決中被控訴人株式会社Y1に関する部分は結論において正当であり、同部分についての本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用は本判決主文第三項のようにそれぞれ負担させることとし、仮執行の宣言につき民訴法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 竹原俊一 裁判官 渡邊壯)